ATL（成人T細胞白血病）と母乳について

【ご意見】
ご意見箱への投書より：妊娠してはじめてATLに感染していることがわかり、母乳を与えるのを禁じられました。子どもがほしくてもできない人がいるように、母乳をあげたくてもあげられない人もいるのです。「母乳がいちばん」と強調するメッセージに配慮がほしいと思います。


【回答】
■匿名さんはさぞつらい思いをされたことと思います。当院の方針について誤解があるようですので、説明させてください。

■乳児にとって母乳が最高の栄養であることは間違いありません。けれども絶対に母乳でないといけないとは思いません。理由があり納得してのミルク育児であれば、それで良いと思います。

■しかし、実際には正確な知識や援助がないために、納得したわけではなく母乳を続けることができなかったお母さんがたいへん多いのです。母乳育児を希望していたのに、間違った指導のためにミルクになった方はとても気の毒です。

■母親が風邪薬を飲むだけで母乳をやめるように言われることも非常に多い誤解の一つです。WHOの指導書には母乳の絶対禁忌は抗がん剤と放射性物質のみで、抗生剤、解熱剤、胃薬、ステロイド剤等では通常量で安全、向精神薬でも副作用に注意しながら授乳を続けるべきと明記されています。

■ATLについては、たしかに母乳を禁止することで母子感染のリスクを減らすことができますので、匿名さんがそのような指導を受けたことは、お気の毒ですが、やむを得ないと思います。母乳育児の重要性とATL感染のリスクを比較検討した結果、最近では、母乳か人工乳かをお母さんに選択してもらうやり方も増えつつあります。3か月間だけ母乳を与え、その後は完全人工栄養という方法です。3か月間母乳栄養の感染率は、完全人工栄養の感染率とほぼ同じ3〜5%程度、長期母乳栄養の場合は20%前後です。（ミルクを嫌って予定通りに母乳を止められない例もあるそうです。）


■子育てに「絶対の正解」はありません。たとえ人工栄養でも育て方次第で母乳に負けないように愛情を注ぐことはできると思います。十分な説明を受け納得して選択されることで、後々後悔しないようにすることが一番大切ではないでしょうか。

■今後も、当院は母乳育児を希望するお母さんへの応援を続けていきたいと思いますので、よろしくご理解いただきますようにお願いします。　　


おひさまこどもクリニック