アレルギーを防ぐ離乳食2

おひさまこどもクリニック

2022年6月23日(木)12時放送


　卵や牛乳などのアレルギーが不安で離乳食を進めることができない親御さんのためにお話したいと思います。

１．食物アレルギーとは
　食べ物を食べて、もしくは接触して、直後から数時間以内に、口囲や顔面の発赤や腫脹・全身のじんま疹など皮膚症状、のどの違和感・結膜炎・鼻炎などの粘膜症状、咳・喘鳴・息苦しさなどの呼吸器症状、腹痛・嘔吐・下痢など消化器症状、気分不良や頭痛・意識障害などの神経症状を起こすことです。多くは食後30分以内、遅くとも2時間以内に発症します。
　
　これら皮膚粘膜症状、呼吸器症状、消化器症状、神経症状のうち2つ以上の臓器の症状を併発するものをアナフィラキシーと言い、強い全身症状が見られます。とくに血圧低下や意識障害がみられるものをアナフィラキシー・ショックといい、生命の危険があります。

　食物制限をする理由は食後短時間で発症する即時型反応であるアナフィラキシーを予防するためです。食後半日あるいは1日以上経過してから湿疹が出るような遅延型アレルギーは頻度が少なく食餌制限は不要です。


２．漠然とした不安が多い
　上記のような症状があり、医師に食物アレルギーと診断され、食物制限を指示されているお子さんは仕方がありません。しかし、実際には、はっきりした症状が無いのに漠然とした不安のために離乳食を進めることができない方が多いことが一番の問題です。


3．できるだけ食べさせることが大事
　本人に目立つ皮膚症状が無く、食物アレルギーの既往歴・家族歴も無い場合、普通に食べさせましょう。医学的根拠の無い素人判断で不必要な制限をして、成長に必要な栄養素が不足する事にならないよう、注意が必要です。

　最近の研究で、不必要な食物制限は、逆に食物アレルギーの頻度が増加することも分かってきました。不安な気持ちだけで食物制限をしないように、小児科医とよく相談してください。


4．血液検査(IgE)では予測できない
　即時型アレルギーには血液中のIgEという抗体が関係しています。食べたことがない食品についてIgE検査をしてもアレルギーの予測はできません。検査で卵に異常があっても実際に卵を食べて症状が無ければ、卵アレルギーではないのです。症状のないお子さんが検査を受ける必要は無く、採血で痛い思いをするのは無駄です。

　一度に30−40品目のIgE検査をする方法がありますが検査の精度が低いです。症状のないアレルゲンの検査をする事は医療費の無駄であり、過剰な心配や食餌制限に繋がりますので、お勧めできません。

　食べた直後に皮膚粘膜症状、呼吸器症状、消化器症状、神経症状などがあった食品に限定して血液検査をしましょう。


5．経皮感作と腸管寛容
　正常な皮膚に食品がついても特に反応はありませんが、荒れた皮膚、つまり、バリヤの壊れた皮膚に食物が付くとアレルゲン(敵)として免疫システムに記憶され、血液中にIgE抗体が作られます。これは「経皮感作」と呼ばれる＜悪い学習＞です。
　食べさせていなくても、家庭内には微量の食品が落ちて皮膚に付着し経皮感作を受けます。スキンケアにより肌荒れを改善して経皮感作を抑える事が大事です。
　一方、食べた食品が腸管粘膜を通じて敵ではないと学習される事を「腸管寛容」と言います。＜良い学習＞です。IgEなどの攻撃を抑える免疫細胞(Treg)が作られます。
　離乳食で、卵・牛乳・小麦などを少量ずつでも食べさせていれば、腸管寛容が経皮感作に打ち勝ちます。しかし、全く食べさせていないと、経皮感作にブレーキがかからず食物アレルギーが進行してしまいます。


6．ハイリスクの胎児や乳児とは？
　両親や兄弟に食物アレルギーがあればハイリスクとされますが、妊娠中や授乳中の、母親の食物制限はアレルギーの予防効果が無く推奨されていません。
　母乳にはお母さんが食べた食物の成分が分泌されます。母乳を通じて、赤ちゃんはいろいろな食品を食べる練習をしています。お母さんは制限せずにバランスよく食べることが大事です。


7．乳児の食物アレルギーの原因食品は？
　乳児の原因食物は鶏卵＞牛乳＞小麦の順位で、6:2:1程度、これらの3大アレルゲンが9割以上を占めます。3大アレルゲンによる乳幼児の食物アレルギーは成長とともに改善することが多く、3歳までに50％、学童までに80-90％が食べられるようになります。


8．アレルギーを防ぐ離乳食(今日のポイント)
　以下、大阪府柏原市(かしわらし)の小児科医西村龍夫先生のご指導を参考に説明します。

　離乳食の開始は通常どおり生後5-6か月からで構いません。開始を遅らせることで、食物アレルギーが増加するという報告もあります。様々な食品を食べさせるようにしてください。

1）卵
　卵ボーロ１〜２個から始め、徐々に増やしていってください。赤ちゃんのときに卵ボーロを７〜８個食べられるようになったら、卵アレルギーの心配はありません。固形物を食べる時期になれば、柔らかい炒り卵か、ゆで卵を少量食べさせれば良いと思います。

2）牛乳
　ずっと普通の粉ミルクを飲んでいるなら牛乳アレルギーはありません。チーズもヨーグルトも大丈夫です。完全母乳で粉ミルクを飲んでいない赤ちゃんは、最初は2ml の粉ミルクを飲ませるか、スプーン1 杯のヨーグルトを与えてください。

3）小麦
　柔らかく煮たうどんを食べさせて下さい。最初は１〜２cm から初めて、増やしていってください。その後にパンと粉ミルクで作ったパン粥を食べさせれば良いと思います。

4）大豆
　お豆腐で大丈夫です。大豆のアレルギーはほとんどありません。気にせずあげましょう。

5）ピーナッツ
　ピーナッツそのままでは誤嚥するので与えないで下さい。ピーナッツバターを少量ずつなめさせるのが良いと思います。パンが食べられるようになっていれば、パンに塗って食べさせてあげて下さい。

6）その他にも、様々な食材を食べさせてあげて下さい。食物制限しているお子さんより、　小さい頃にいろいろ食べているお子さんの方が将来のアレルギーが少ないことが分かっています。離乳時に注意すべきなのはアレルギーよりも誤嚥（ごえん＝食物をのどに詰めること）、や食中毒（1 歳未満のハチミツなど）です。

※初めての食材を試すときは、念のためかかりつけ医の診療時間内にして、何かあればすぐに相談出来るようにしましょう。皮膚症状などをスマホで撮影しておくと診断に有用です。