日本脳炎ワクチン不足
おひさまこどもクリニック
2021年2月25日(木)12時放送
1) 日本脳炎ワクチンが不足しているそうですが、どういう状況なのでしょうか？
日本脳炎ワクチンはビケンが製造するジェービックとKMBが製造するエンセバックの2種類が流通しています。2020年度の出荷量はジェービックが338.3万本、エンセバックが66.9万本で、総数405.2万本のうちジェービックが83％のシェアでした。このシェア8割強のジェービックが製造上の問題で、2021年4月から11月まで出荷できなくなったのです。
2) それは大変ですね、対策はどうなっているのでしょうか？
日頃から、一社に偏らないような生産体制を、国が責任を持って指導して欲しいですね。
シェア2割弱であったKMBに対して、厚生労働省は増産を促しており、昨年度の66.9万本から今年度は167.4万本へ増産する予定です。両社合わせて2021年度は323.4万本の見込みで、81.8万本ほど不足する計算です。
日本脳炎ワクチンは生後6か月から90か月までに3回接種し、9歳以上13歳未満で4回目を接種します。ワクチン不足のため、4月からは1期の2回接種(1回目と2回目)を優先します。ただし、3回目接種で生後90か月が近い人、2期(4回目)で13歳が近い人は定期接種の期限が切れますので、急いで接種を受けてください。
3) 日本脳炎ってどんな病気でしょうか？
日本脳炎は死亡率や後遺症の割合が高い感染症で、コガタアカイエカが媒介します。
豚や馬などの家畜、野生のイノシシや野鳥などが日本脳炎ウイルスに感染しています。とくに豚の血液中のウイルス濃度は高く増幅動物と言われています。この豚を吸血したコガタアカイエカが人を吸血するときに人に感染します。人の血液中のウイルス濃度は低いので、患者を吸血した蚊が媒介して人から人へ感染することはありません。
コガタアカイエカは水田や沼地など大きな水たまりに産卵します。暑い日中よりも日没以降に活動が活発になりますので、日没以降の野外活動で蚊に刺されないように注意が必要です。
人に感染した場合、脳炎になるのは、100人から1000人に1人で、多くの人は無症状です。潜伏期間は6日〜16日間で、数日間の高熱、頭痛、嘔吐、めまいなどの髄膜炎のような症状で発病します。下痢や腹痛を伴うこともあります。引き続き、首の硬直、光線過敏、意識障害、筋強直、痙攣や麻痺などの神経症状が見られます。
致死率は20〜40％、小児や高齢者では死亡のリスクが高く、痙攣、麻痺、精神発達遅滞、精神障害などの後遺症が生存者の45〜70％に残り、特に小児では重度の障害を残すことが多いとされています。患者が3人発生したら、無事に助かるのは1人以下と非常に重い感染症です。
4) 日本脳炎の治療法は？
抗ウイルス剤などの原因療法はありません。対症療法をしながら、本人の免疫がウイルスに打ち勝つのを待つしかありません。また、後遺症が残った患者さんについても、破壊された脳細胞を修復するような根本的な治療法はありません。
治療法がなく、発病すると重篤な疾患ですので、日本脳炎ワクチンによる予防が一番の確実な対策です。
5) 日本脳炎ワクチンの効果は？
日本脳炎ワクチンが積極的に実施される前の1950年代には小児を中心に年間数千人の発生がありました。1967年から1975年に特別対策として小児だけでなく高齢者を含む成人に積極的にワクチン接種が行われたことで、患者数が激減しました。1980年代は年間数10例となり、1992年以降、年間10例以下となっています。患者数は少ないですが、現在も毎年発生しています。患者の多くは日本脳炎ワクチンを接種していない方々です。
最近の小児の日本脳炎罹患状況をみると、
2006年に熊本県で3歳児、
2009年に熊本県で7歳児、高知県で1歳児、
2010年に山口県で6歳児、
2011年に沖縄県で1歳児、福岡県で10歳児、
2013年に兵庫県で5歳児、
2015年に千葉県で生後11か児の報告があります。
日本小児科学会は、日本脳炎流行地域に渡航・滞在する小児、あるいは、最近日本脳炎患者が発生した地域やブタの日本脳炎抗体保有率が高い地域に居住する小児に対しては、生後6か月から日本脳炎ワクチンの接種を開始することを推奨しています。
西日本は日本脳炎の発生リスクが高く、とくに南九州は豚の肥育数が多い地域ですので、日本脳炎ワクチンを積極的に受けて欲しいと思います。
6) 受け損なった人がいるようですが・・・？
以前使われていた日本脳炎ワクチンの接種後に、ADEM(亜急性散在性脳脊髄炎)が発生したとして、2005年度〜2009年度に日本脳炎の積極的な勧奨が行われませんでした。
しかし、WHO(世界保健機構)は、日本脳炎は重篤な感染症であり、ワクチンとADEMの因果関係は認められないとして、積極的な接種を勧奨しています。私達小児科医も、大事なワクチンだから受けるようにと一生懸命お勧めしたのですが、接種漏れの方が相当数おられます。
特例措置の2007年4月2日から2009年10月1日生まれの9歳から13歳未満の1期、および、1995年4月2日から2007年4月1日生まれの20歳未満の1期および2期の対象者は、母子手帳を確認して保健センターに定期接種の相談をしてください。
7) 地球温暖化の影響で蚊の増加も心配されていますね。
夏の病気と思われがちですが、11月でも患者の報告があります。蚊が生き延びる環境があれば、今後は真冬の発生もあるかもしれません。
これまで北海道では日本脳炎患者の発生が無いため、日本では唯一、日本脳炎ワクチンの定期接種が行われていませんでしたが、2016年の4月から定期接種が始まりました。北海道で生まれた方が、将来、北海道以外で生活する可能性は十分ある訳ですから、良かったと思います。
8) 世界での流行状況はどうでしょうか？
日本脳炎は、極東から東南アジア、南アジアにかけて広く分布しています。
世界では小児を中心に毎年5万人の患者が発生し1万人が亡くなっています。
年間患者数の多い国としては､中国20.000〜30,000人､インド3,000人､ネパール2,000〜3,000人､ベトナム2,000〜3,000人､タイ1,000〜2,000人と言われ、今後も増加傾向です。加えて、これまで患者の報告がなかったパプアニューギニアでも患者が確認されるなど、現在も流行地域は拡大傾向にあります。海外旅行をされる場合は注意が必要です。
(最後に) 怖い感染症は新型コロナだけではありません。定期接種を受け忘れないように、母子手帳の確認をお願いします。