こどもの舌下免疫療法について
おひさまこどもクリニック
おおすみFMネットワークにて
2018年4月26日放送
お待たせしました！
アレルギー性鼻炎の小児にも舌下免疫療法ができるようになりました。
対象年齢が12歳以上65歳未満から5歳以上65歳未満へ拡大されました。
１．アレルギー性鼻炎とは？
くしゃみ、はなみず、鼻づまりが慢性的に続く状態です。
季節性の場合、毎年2-3月に悪化する方はスギ花粉が原因と思われます。
4月はヒノキの花粉、5月から7月はイネ科の雑草、秋はキク科の雑草などが原因です。
一年を通して症状があり、掃除などで埃を吸い込むと症状が悪化する方はダニやハウスダストが原因と思われます。
ハウスダストとは家の埃の意味で、衣類などの繊維クズ、ペットの毛やフケ、カビ、細菌など様々な物質が含まれますが、中でもダニの糞や死骸は重要な成分です。つまり、ハウスダストアレルギーとダニアレルギーは共通性が高いです。
また、年齢が上がるほど、スギ花粉症が増加する傾向があります。
小児でもスギ花粉症はありますが、生まれた時から一年中影響を受けている思われるダニ抗原の役割が重要です。
２．アレルギーとは？
私たちには、ウイルスや細菌などから体を守るための免疫という仕組みがあります。
アレルギーとは、この免疫の過剰反応です。
アレルギーの原因物質をアレルゲンと言い
卵や牛乳などの食品や花粉やハウスダストなどがよく知られています。
これらの、元々は体には無害な物質に対する免疫の過剰反応によって、
食物アレルギー、アレルギー性鼻炎、気管支喘息などの症状が起きます。
どのアレルゲンにどの程度反応するかは個人差が大きいのが特徴です。
３．アレルギー性鼻炎の治療は？
治療の原則はアレルゲンとの接触を減らすことです。
薬剤としては痒みや鼻汁を減らす抗ヒスタミン剤の内服、
鼻粘膜の炎症が強い場合はステロイドの点鼻薬などが使われています。
このような方法だけでは十分なコントロールができない患者さんに対して
アレルゲン免疫療法をお勧めしています。
４．アレルゲン免疫療法とは？
ダニや花粉などのアレルゲンエキスを定期的に体内に入れることで
アレルゲンに反応するIgEという抗体をブロックするIgGという抗体が作られます。
体をアレルゲンに慣らして反応しにくくする治療と考えてください。
免疫療法として、従来は減感作療法が行われてきました。
アレルギー性鼻炎の患者さんに、ダニやスギ花粉などの抗原エキスを定期的に皮下注射する方法で、長い歴史と実績があります。
しかし、小児に対して定期的に注射をすることはかなりの負担があるため、ほとんどの小児科では実施していません。
また、注射では、ときに強いアレルギー反応が起きることがあるため、注意が必要です。
注射しなくて良い方法として、近年、舌下免疫療法が注目されるようになってきました。
アレルギー性鼻炎の治療をすることで、結膜炎や喘息など他のアレルギー症状も改善することが知られています。また、スギやダニの治療をすることで、他の抗原に対する反応が軽くなる症例も少なくありません。ただし、有効率は70－80％程度と言われており、すべての患者さんに有効という訳ではありません。
５．舌下免疫療法とは？
舌の裏側にアレルゲンエキスを5分程度置いておくと、粘膜から吸収されます。
注射と違って、痛みがないこと、強いアレルギー反応が少ない事、
自宅で簡単に実施できる事などの利点があります。
現在日本で販売されているのは
ダニに対する薬剤が2社から発売されており、どちらも錠剤を舌の裏に置いて唾液で溶かします。これまで12歳以上が対象でしたが、今年3月に小児の保険適応が認められ、5歳以上のお子さんも治療できるようになりました。
また、スギ花粉に対する薬剤は液状のもの1種類だけでしたが、本年中(5月から8月？)に錠剤が発売される見込となりました。液剤は12歳以上が対象でしたが、錠剤は5歳以上の小児への保険適応が認められる見込です。
アレルギー性鼻炎があり、血液検査でスギまたはダニのIgEというアレルギーの数値が高いことが確認できた患者さんが治療の対象になります。
これらの薬剤を処方できるのは舌下免疫療法認定医に限られています。
６．薬剤の使い方は？
薬剤は唾液で1－2分以内に溶けます。舌の裏側に5分程度、薬剤を保持してから飲み込みます。5分間だけ飲食を我慢すれば、あとは普通に生活できます。
初回投与は、医療機関で医師の観察の下に行うことが決められています。
翌日からは、
朝起きて、洗顔後、薬を口に入れて、5分後は朝食を取り、問題なければ登校できます。
投与後の30分間はとくに副作用に注意してください。
万一副作用があった場合も、朝であれば、病院受診がしやすいと思います。
投与後、2時間は激しい運動や入浴などは避けます。
初めの1週間程度は少ない量で開始し、問題がなければ増量して維持量になります。
維持量になるまでは毎週、維持量になってからは月1回の通院が必要です。
新薬であるスギの錠剤は、発売から1年間は、2週間に1回の通院が必要です。
早ければ3か月程度で鼻炎症状が軽くなります。1年以上の治療で明らかな効果が見られますが、1年で中止すると、また症状が元に戻ってしまいます。治療終了後も効果が持続するために、少なくとも3年間の治療をお勧めします。
７．副作用など注意点は？
内服後30分以内に副作用が見られることが多いです。頻度が高いのは、舌下粘膜の刺激感や腫脹、喉の刺激感、耳の痒みなどですが、ほとんどは自然に改善します。軽度の副作用は薬が効いている証拠とも言えます。我慢できる範囲であれば治療を継続してください。
口や喉の刺激感が辛い時は、5分後に吐き出してうがいする方法や、投与量を減らす方法などもありますので、主治医に相談してください。
全身蕁麻疹、気分不良、嘔吐、呼吸困難、意識障害などのアナフィラキシーのリスクがゼロではありませんが、実際に起こることはまれですので、心配しすぎないようにしてください。
患者さんの体調が安定していれば、ダニはいつでも開始できますが
スギ花粉は、花粉飛散時期を避けて、5月連休明け以降に開始します。
治療できない患者さんは、
喘息発作がひどい時、妊娠中、免疫に影響する治療を受けている時などです。
また、スギとダニを一緒に治療することは、現状では勧められていません。
従来の鼻炎の薬剤との併用は問題ありません。
有効率は80％程度で、すべての患者さんに効果がある訳ではありません。
8.治療の対象とならない方は？
・花粉症の原因がスギ花粉またはダニではない方
・高血圧などで全身性のβ阻害薬を使用している方
・妊娠中の方
・重症の喘息を合併している方
・全身性の重篤な疾患を有する方
①悪性腫瘍
②重症の心疾患
③自己免疫疾患
④免疫不全症
⑤慢性の感染症の方
・全身ステロイド薬や抗癌剤を使用中の方
・急性感染症に罹患中
・歯科矯正を含め、口内に傷や炎症がある方
・5歳未満の小児、65歳以上の高齢者
9．おすすめのポイントは？
継続して治療できるかことが大事です。当院では、2016年秋から舌下免疫療法を開始し、症例は100名近くになりました。継続している患者さんのほとんどが症状が改善して、それまで使用していた鼻炎などの薬剤が減少しています。一方で、中断していまった方も少なくありません。理由は副作用よりも、面倒ということです。
鼻炎のために日常生活、学校、仕事などが、どれくらい困っているかが、継続のためのポイントです。くしゃみ・鼻水・鼻づまりで集中できない、目の痒みが辛く目玉を外して水でジャブジャブ洗いたい、花粉の季節が憂鬱など、とても困っている患者さんも多いと思います。
毎日治療が必要と思えば面倒かもしれませんが、1日1回の内服だけで長年苦しんできたアレルギー性鼻炎や合併するアレルギー症状から開放されると考えれば、継続できるのではないでしょうか。