アレルギー性鼻炎の舌下免疫療法について
おひさまこどもクリニック
2020年3月26日12時放送
毎年、この時期は花粉症でお困りの方が多いと思いますので、今日はアレルギー性鼻炎の舌下免疫療法についてご説明します。
１．アレルギー性鼻炎とは？
くしゃみ、はなみず、鼻づまりが慢性的に続く状態です。
季節性の場合、毎年2-3月に悪化する方はスギ花粉が原因と思われます。
4月はヒノキの花粉、5月から7月はイネ科の雑草、秋はキク科の雑草などが原因です。
一年を通して症状があり、掃除などで埃を吸い込むと症状が悪化する方はダニやハウスダストが原因と思われます。
ハウスダストとは家の埃の意味で、衣類などの繊維クズ、ペットの毛やフケ、カビ、細菌など様々な物質が含まれますが、中でもダニの糞や死骸は重要な成分です。つまり、ハウスダストアレルギーとダニアレルギーは共通性が高いです。
小児ではダニアレルギーの割合が多く、年齢が上がるほど、スギ花粉症が増加する傾向があります。
２．アレルギー性鼻炎の治療は？
治療の原則はアレルゲンとの接触を減らすことです。スギ花粉に対しては、メガネ、マスク、帽子などの着用、洗濯物を屋外に干さないなどの対策があります。
薬剤としては痒みや鼻汁を減らす抗ヒスタミン剤の内服、鼻粘膜の炎症が強い場合はステロイドの点鼻薬などが使われています。
このような対症療法だけでは十分なコントロールができない患者さんに対して、原因療法としてのアレルゲン免疫療法をお勧めしています。
３．アレルゲン免疫療法とは？
ダニや花粉などのアレルゲンエキスを定期的に体内に入れることで、体をアレルゲンに慣らして反応しにくくする治療と考えてください。
免疫療法として、従来は皮下注射による減感作療法が行われてきました。
長い歴史と実績がありますが、小児に対して定期的に注射をすることはかなりの負担があるため、ほとんどの小児科では実施していません。また、注射では、ときに強いアレルギー反応が起きることがあるため、注意が必要です。
注射に代わる方法として、2014年から12歳以上65歳未満に対してスギ花粉の舌下免疫療法が保険適応となり、2015年からダニの治療ができるようになりました。そして、2018年から5歳以上の小児にもスギやダニの保険適応が認められました。
アレルギー性鼻炎の治療をすることで、結膜炎や喘息など他のアレルギー症状も改善することが知られています。また、スギやダニの治療をすることで、他の抗原に対する反応が軽くなる症例も少なくありません。ただし、有効率は70－80％程度と言われており、すべての患者さんに有効という訳ではありません。
４．舌下免疫療法とは？
舌の裏側にアレルゲンエキスを5分程度置いておくと、粘膜から吸収されます。
注射と違って、痛みがないこと、強いアレルギー反応が少ない事、自宅で簡単に実施できるなどの利点があります。
スギ花粉の薬は鳥居薬品1社から、ダニの薬は塩野義製薬と鳥居薬品の2社から発売されています。
アレルギー性鼻炎があり、血液検査でスギまたはダニのIgEというアレルギーの数値が高いことが確認できた患者さんが治療の対象になります。これらの薬剤を処方できるのは舌下免疫療法認定医に限られています。
５．薬剤の使い方は？
薬剤は唾液で1－2分以内に溶けます。舌の裏側に5分程度、薬剤を保持してから飲み込みます。5分間だけ飲食を我慢すれば、あとは普通に生活できます。
初回投与は、医療機関で医師の観察の下に行うことが決められています。
翌日からは、朝起きて、洗顔後、薬を口に入れて、5分後は朝食を取り、問題なければ登校できます。投与後の30分間はとくに副作用に注意してください。
万一副作用があった場合も、朝であれば、病院受診がしやすいと思います。
投与前後の、2時間は激しい運動や入浴、飲酒などは避ける必要がありますので、夜よりは朝起床して洗顔後すぐの投与をお勧めしています。
初めは少ない量で開始し、問題がなければ増量して維持量になります。
維持量になるまでは毎週、維持量になってからは月1回程度の通院が必要です。
早ければ3か月程度で鼻炎症状が軽くなります。1年以上の治療で明らかな効果が見られますが、1～2年で中止すると、また症状が元に戻ってしまいます。治療終了後も効果が持続するためには、3年から5年程度、気長に治療をお勧めします。
６. 治療の開始時期、ダニとスギの併用療法
ダニの治療はいつでも開始できます。しかし、1月から5月のスギ花粉が多い時期にはスギ花粉に対する反応が強くなっているためスギの治療を開始することができません。5月の連休明けに治療を開始して、一度開始したら1年中治療を続けます。
スギとダニを一緒に治療することもできます。どちらか一つから開始して数か月して慣れてきたらもう一つを追加します。当院で治療中の患者さんはスギが3割、ダニが7割、両方併用が1割程度で、経過は良好です。
７．副作用など注意点は？
内服後30分以内に副作用が見られることが多いです。頻度が高いのは、舌下粘膜の刺激感や腫脹、喉の刺激感、耳の痒みなどですが、ほとんどは自然に改善します。軽度の副作用は薬が効いている証拠とも言えます。我慢できる範囲であれば治療を継続してください。
口や喉の刺激感が辛い時は、5分後に吐き出してうがいする方法や、投与量を減らす方法などもありますので、主治医に相談してください。
全身蕁麻疹、気分不良、嘔吐、呼吸困難、意識障害などのアナフィラキシーのリスクがゼロではありませんが、実際に起こることはまれですので、心配しすぎないようにしてください。
８．治療の対象とならない方は？
・5歳未満の小児、65歳以上の高齢者
・原因がスギ花粉またはダニではない方
・歯科矯正を含め、口内に傷や炎症がある方
・高血圧などで全身性のβ阻害薬を使用している方
・抗うつ剤など精神科の薬剤を使用中の方
・妊娠中の方
・重症の喘息を合併している方
・全身性の重篤な疾患を有する方
①悪性腫瘍 ②重症の心疾患 ③自己免疫疾患 ④免疫不全症 ⑤慢性の感染症
・全身ステロイド薬や抗癌剤を使用中の方
・急性感染症に罹患中
９．おすすめのポイントは？
継続している患者さんのほとんどは症状が改善して、それまで使用していた鼻炎などの薬剤が減少しています。一方で、中断してしまった方もあります。理由は副作用よりも、面倒ということです。
鼻炎のために日常生活、学校、仕事などが、どれくらい困っているかが、継続のためのポイントです。くしゃみ・鼻水・鼻づまり・目の痒みで集中できない、花粉の季節が憂鬱など、とても困っている患者さんも多いと思います。
毎日治療が必要と思えば面倒かもしれませんが、1日1回の内服だけで長年苦しんできたアレルギー性鼻炎や合併するアレルギー症状から開放されると考えれば、継続できるのではないでしょうか。